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再会
数日後、霧の谷を越えて港街の石の仲買組合事務所に顔を出した。数年前の出来事をきっかけに頻回に顔を出し、こちらから新たな採掘場所を教えてあげたりして信頼関係を築いてきた。おかげで、卸商街でおかしな動きをしている者がいると、組合側がこっそり教えてくれるようになり、こちらもふとどき者の動きを把握しやすくなってありがたい限りだ。
今のところ、石の卵が卸に出たことは無い。
事務所を出て、港に下る道を歩いていると、人混みの中に見知った顔を見つけた。
「おう! セイランか! 久しぶりだな」
手を上げて声を掛けると、あちらも気が付いて手を振った。
「ザクロか。元気だったか?」
セイランの隣に若い男が付いていた。
目が合うと、ニコッと笑って頭を下げる。
「ん? 新しく若いの雇ったのか?」
目をパチクリさせてセイランに聞くと、一瞬きょとんとしたセイランが噴き出して大笑いし始めた。若い男は苦笑いして頭を掻いている。
「冗談キツイですね。オレですよ。テンです」
「え? テン?」
改めて、若い男を頭の先から足の先まで眺める。黒い癖っ毛は襟足を長めに整えられ、セイランを追い越した背丈は、自分と視線の高さが変わらない程に伸びている。そういえば、深い青い瞳の目元に子どものころの名残があるか……。
「声変わりが終わってから、メキメキ身長が伸びてな、ここ数年で背丈を抜かされたんだ」
セイランが涙を拭きながら説明した。
そこまで笑わなくてもいいだろうに……。
「いや、だって、初めて会った時は、胸の下の高さくらいの身長で……可愛かったのに」
「まぁ、あの頃はどっちかっていうとカプリ似だったからな。ところで、これから何か用事でもあるのか? 一緒に飯でもどうだ?」
親指を立てて、露天街の方を指す。
一緒に、飯?
「……え? あ。オレ、偏食だから……」
「組合長から聞いて知ってるよ。肉も卵も使わないメニューのある飯屋に行くから大丈夫だ。おごってやるからついて来いよ」
「父ちゃん、揚げパンはデザートだからね」
「はいはい。わかったよ」
「?」
連れ立って歩くセイラン親子の後をついていく。
表通りから一本奥に入った閑静な場所に、こじんまりしたカフェがあった。
「ここのオリーブオイル、美味いんだ。パンに付けて食うと最高だぞ。野菜と豆がたっぷりのスープもあるし……。そして何より、揚げパンが美味い」
船乗りは左党なイメージだったが、セイランは違うのか?
そこそこ混んでいる客席は、心なしか女性の方が多いような……。
我々は、丁度空いていた隅の方のテーブルを囲んだ。
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