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「とりあえず、体液の流出は止められた。火傷に痂皮を張った状態まで、なんとか治せたよ」
顔中に玉の汗を浮かべてフレアが振り向いた。
「後は二段階に分けて皮膚組織を再生させる。でも、ここまで深いと元通りに綺麗にはならないよ。ひどい引き連れ跡が残ってしまう……」
「自慢のお肌だったのにな……」
ツキシロは寂しそうな笑みを浮かべると、ザクロのそばに膝をついた。
「せめて、苦痛は除いてやろう」
ツキシロが手をかざすと、ザクロの身体から白い霧のようなものがふわりと浮かび上がって消えた。
ザクロの息が穏やかに整ってきたのを確認してから、ツキシロとシロガネは洞窟を出た。ともかくも、ザクロは生きていたこと、数家族の無事を確認できたことを港で待っているセイランたちに知らせねばならない。木霊の精霊領域に居るので、当面こちらには危険はないことも伝えて安心させる必要もあった。
「治療に時間がかかりそうだし、しばらく、ザクロは動かせないな。セイランには一旦引き取ってもらうか。いざとなったら、テンに連絡してもらえばいい」
「ふむ。そうであるな」
シロガネは小さな木霊一匹を背中に載せると、出口の案内を頼んで飛び立った。
シロガネの姿が見えなくなってから、ツキシロは踵を返して洞窟の奥に戻った。ザクロの左右に、フレアとテンが座って見守っている。
「……それにしても、こいつ、噴火の時どこに居たんだ?」
二人の真ん中に座って、ツキシロは首を傾げた。
「霧の谷にいたら、こんなにひどい火傷を負うこともなかっただろうし、裾の川以南にいたら、確実に炭になってただろうし……」
「治療してて思ったんだけど」
フレアがザクロの火傷の範囲を指しながら話し出した。
「ひどい火傷を負っているのだけど、幸い、治った後身体を動かすのに支障が出るような可動域の広い関節の部分は免れているのね。肩の火傷も、背面の方が中心だし、手先、足先はもちろん、肘や膝にも被っていない。それに、ザクロさんて右利きだよね? 火傷は左側に集中してる」
ツキシロは目を瞬いた。
「……ああ……、そういうことか」
「何が?」
テンがいぶかると、ツキシロはちょっと困った顔をして微笑んだ。
「心当たりはあるんだが、ま、それはザクロが意識を取り戻してから答え合わせだな」
翌日からのザクロの治療は実に三人がかりだった。テンが薬湯を注ぎながら、フレアが皮下組織を活性化させて古い痂皮を取り除き、ツキシロが治療に伴う痛みを除く。
シロガネは、木霊らとともに布団の材になる木の葉を集めた。患部のある左側には触れられないので、新しい布団に移すのにザクロの体の向きを変えるのも一苦労だ。
「今までどうやってたんだ?」
ツキシロが呆れて訊くと、大小の木霊たちがぴょんぴょん跳ねだした。どうやら数を恃んでの人海戦術だったらしい。体液や古い痂皮などにまみれた汚れた木の葉布団をかき集めてツキシロが消すと、木霊たちから、ほぉーと歓声が上がった。
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