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哀悼
何日か経って、傷がふさがりザクロの顔色に血の気がさしてきたので、ツキシロとフレアが髪を洗って整え、髭をあたった。
「もともとあんま目つきよくなかったけど、益々凄みのあるご面相になっちゃったね」
フレアにザクロの頭を支えてもらい、ツキシロは屈みこむようにして剃刀を動かしていた。相手はケガ人なんですからあんまり悪口は……と、フレアが苦言を呈する。
「ん?」
ザクロの瞼が動いた気がして、ツキシロは手を止めた。火傷してる場所に近くて一番神経を使う口周りを先にあたって、右頬に取り掛かったところだった。
「今、……瞼が動いた?」
「え?」
フレアもザクロの顔を覗き込む。
そこへ、きれいな湯を張った桶を抱えてテンがやってきた。二人のただならぬ様子に、足早に近づく。ツキシロはテンから桶を受け取ると、手ぬぐいを軽く絞り、ザクロの顔にのっけた。
数秒ののち……。
「……ぶわぁっ! 何すっだゴラ! 殺す気か!」
顔を振ってはねのけたザクロを見て、三人は歓声を上げた。
騒ぎを聞きつけたシロガネが羽音を立てて飛び込んできた。後を追って、木霊やら翁たちやらが駆けつける。
布団の上に起き直ったザクロは、茫然とした顔をして辺りを見回した。
「え? ……何これ? ここどこ? てか、なんで目が回る?」
ザクロは再び布団に倒れ込んだ。のぞき込む面々を怪訝な顔をして見回す。
「しばらく寝たきりだったから仕方ないんです。元の通りに動けるようになるまで、少し練習が必要です」
フレアが説明した。
誰? とザクロが目顔でツキシロに問うた。
「うちの子。てか、この子が先の噴火後に生まれた回復師」
「フレアといいます」
ニッコリ笑って自己紹介した。
「ほお……やっと気が付いたかの」
「よかったよかった」
松と杉の翁が頷きあった。
「あ!」
翁を認めて、ザクロが頭を持ち上げた。
「ここ、……木霊の領域か! って、つーっイタタ! なんだ?」
ザクロが自分の左首筋に右手で触れる。初めて認めるざらりとした感触に、ギョッとして左半身に目をやった。
「うわ……すっげ……」
左の脇腹、腰に触れ、足を上げて左太腿の外側まで続く火傷の跡を確認する。
足を下ろして溜息をついた後、思いついたように下履きを引っ張って中を確認しようとしたところで、ツキシロがザクロの頭をスパーンと叩いた。声のトーンを下げて睨みつける。
「ばかっ! そこは後でこっそりやれ!」
「ザクロさんとツキシロさんて、そういう仲だったんですか?」
テンが噴き出しそうになるのを我慢しながら訊くと、二人ともテンに向いて憤慨した。
「「どういう仲だよ!」」
あまりの息のぴったり具合にフレアがたまらず噴き出した。
翁たちがゲラゲラと笑い出し、木霊たちも跳ね回って歓声を上げた。テンも遠慮なく声を上げて笑った。久しぶりに心から笑えた気がした。
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