幕間

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幕間

「谷に緑が戻るには、相当時間がかかるじゃろう。春になれば、枯死木にもぐっておった虫が大量に湧く」  木霊の領域の広場で、松の翁がタバコをプカリとふかした。テンとフレアは、甘い香りのするお茶をすすりながら、翁たちの話を聞いているところだった。 「それをついばみに鳥どもが帰ってくる。糞に混じって様々な種が地にもたらされる。当面のところは、栄養に乏しく保水力もない貧しい土地だからの、地べたを這うような植物から息吹は始まる」  杉の翁がパイプにタバコ葉を詰めながら話を継いだ。 「虫たちに分解された枯死木が栄養となって土に戻り、再び樹木が息吹を取り戻すのは、そうさなぁ十年単位の話よのう。かつての特異な霧の谷の景観は、もう二度とは戻ってこんじゃろうなぁ。それでも、焼き尽くされ、今も火山ガスにさらされておる裾の川以南よりは、ずっと再生が早いはずじゃ」 「夢見草……焼けちゃったよね。今度こそ、本当に潰えてしまったのかな」  フレアは木のカップを両手で包み、湯気を立てているお茶を見つめた。松の翁が、目をパチパチさせてフレアを見た。 「夢見草? 憂いを除く白き花のことか?」 「女神の聖域に咲いていた白い花が咲く木のことです」 「それなら、女神がここから持って行ったものじゃ」  パイプに火を付けながら杉の翁が答えた。 「え? おおもとは、木霊の領域だったの?」  フレアがびっくりして顔を上げた。フレアの声に、木の上で居眠りしてたシロガネがビクッと身体を揺らして目を覚ました。 「なんじゃ? おおもとがどうしたんじゃ?」 「夢見草。もともとはここにあったものだったんだって」  テンが梢を振り仰いだ。 「糞、落とさないでくださいね」 「失礼な! そこまで緩んどらん!」
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