幕間

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「そういえば、水の精霊、女神と連絡とる時どうしてたんだろう。大陸から朱の国に直に繋がるルートが無いんだよな。港からここまで来るのも一日がかりだし、これからちょっと困る」  テンがつぶやくと、杉の翁がパイプを咥えて最初の一吹きをした。 「ここに水の世界とつながる泉がある」 「え? 知らなかった……」 「普段は、こちらから蓋をしているんじゃ。女神の要請で蓋を開けた時だけ、水の精霊がやってくる。水の精霊側から用がある時は雨が降る」  松の翁は、立ち上る紫煙の先を見上げた。 「かつては火の山の麓に堰止湖があってな、そこも水の世界とつながっておったんじゃよ。堰止湖周辺にあった精霊領域の者は、ちぃと癖のあるやつらでな、水の世界を通じてやつらと繋がらぬようにと蓋をしておったころからの習慣なのじゃ。お主たちは便利に使える移動ルートと思っていたかもしれんがな、古の昔はそうでもなかったんじゃな」 「お主は海の精でも若いからの、あまり聞いたことは無いかもしれんが、船乗り連中なら『船の板子一枚下はあの世の入り口』という言い回しを知っとるじゃろう。女神がおらぬようになり、あっちを覆っていた蓋が外れたら、あちらの精霊領域がまた繋がる。海は、もとより善悪の混沌なのじゃよ」  翁たちの言葉に、テンは目を見張った。カラスのキラキラした目と言葉がよみがえる。    ――――――それで、『そういう匂い』なんだな。  主様の聖域を守るためなら、ニンゲンを殺めることも辞さない。今まで何の疑問も持たなかったが、ニンゲンに害をなすという意味では、海の歌姫は十分ダークサイドの種族だ。 「ニンゲンだけでも面倒くさいのに、難儀な事よ」  シロガネが欠伸をするような仕草をした。  冬になり、さすがの朱の国も朝晩は冷えるようになった。  玄の国の泉は凍り付いている時期なので、テンは現在の状況を手紙に書いて港に来た船に託すことにした。  セイラン宛と、玄の国のハイシロ宛。フレアは、春になったら玄の国に帰る気満々だが……、ツキシロはどうするんだか。ペンをクルクル回しながら、目の前で繰り広げられている痴話喧嘩(?)をぼんやり眺めていた。 「くっつくな。邪魔だ」  タライに水をためて、洗い物をしているツキシロの背中にザクロが背中合わせにくっついている。 「こうしてると痛みが消えるんだ」 「こっちは何もしてないぞ! ったく、忙しくしてんのに、暇そうにしやがって。ただくっついてるだけなら勿体ないから、ほれ、皿でも拭け!」 「ケガ人こき使う?」 「都合の悪い時だけケガ人になるな。動け。固まるぞ」 「冷たいなぁ。フレアさん! こんなこと言ってますけどー! 優しくないですよね?」  いきなり巻き込まれたフレアは、困った顔をして愛想笑いをしている。すっかり「気のいいお兄さん」のザクロが戻っていた。
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