1122人が本棚に入れています
本棚に追加
/595ページ
いちばん最初の師匠。秀星が使っていたものを葉子に使ってほしいと、二番目の師匠でもある蒼が準備してくれていた。
その中から、葉子は銀色の『ワインテスター』を手に取った。
「覚えてる。これで、毎晩、準備したワインの味を確認していた」
夫のように、先輩だった彼も、いつもパリッとした白いシャツに艶やかな黒い蝶ネクタイのすっとした佇まいで、この小さな銀カップを指にひっかけて、ワインの試飲をしていた。
お客様に出すのに、きちんとした風味になっているか、チェックしていた。
それが葉子の手に……。
カメラは引き継ぐことはできなかったけれど、葉子にはこの銀のカップが引き継がれる。
「ありがとう、蒼君」
「そこの棚に置いてある箱に入れっぱなしのようだったから。それフランス製のいいやつだよ。ソムリエナイフも本格的。大事にして」
「ソムリエになるって、最近になって決意したばっかりだから。思いつきもしなかった」
「先輩が、これからもずっとそばにいるよ。頑張って」
「うん……」
ソムリエナイフも覚えがある。あの人の手が、美しい手さばきで、ワインボトルを開封していた姿も思い出す。
「甲斐さんがレクチャーを始めてから、俺も感じているよ。秀星さんも、将来は葉子ちゃんをソムリエにしようとしていたんじゃないかって……。俺も同じ思いに至ったのだから、きっとそうだよ」
葉子も『きっと、そうだった』と思えるから、夫に笑顔で頷いた。
頑張って、ソムリエになるよ。
唄もやめない。
あなたのように、好きなものを愛しながら、それを支える仕事にも手を抜かない。
葉子も、秀星の生き方を思い出し、心に誓った。
最初のコメントを投稿しよう!