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どれも綺麗なのに、彼はプロにはなれなかった。どれも、どこかで誰かが撮影してSNSにアップしていそうな出来映えなのかもしれない。
毎日欠かさずに撮影することで、いつか奇跡の一枚が撮れることを待っていたのだろうか。
彼が遺したデータをひとつひとつ確認しているうちに、思わぬ写真画像が、葉子の目に飛び込んできた。
父の料理写真に混じって、黒い制服で給仕をしている葉子の写真がいくつか入っていたのだ。
画像のデータ名が『笑顔、よくなった』、『まだ背筋曲がってる』、『カトラリーを並べる姿、よし』、『ワインを注ぐ姿勢、惜しい』などなど評価のようなものがつけられていた。
葉子はもう、とめどもなく涙が溢れてしかたがなかった。
特に『笑顔、よくなった』に胸が熱くなる。こんな綺麗な顔をした自分を、葉子は自分でも見たことがないと思ったからだ。
きっとこれが『ファインダー越しに見える写真家の目線』なのだろう。
アナタは、たったひとりでも胸を熱くする写真を遺してくれていたんだよ。
なんで。いまわかっちゃったのだろう? あの人が生きているときに、伝えたかったよ。伝えたかった……。
それでも、あの人はあの場所に行くことをやめなかっただろう。
あそこに気が済むまでいたかったのだろう。葉子はそう思う。
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