3.自称・写真家の遺品

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 どれも綺麗なのに、彼はプロにはなれなかった。どれも、どこかで誰かが撮影してSNSにアップしていそうな出来映えなのかもしれない。  毎日欠かさずに撮影することで、いつか奇跡の一枚が撮れることを待っていたのだろうか。  彼が遺したデータをひとつひとつ確認しているうちに、思わぬ写真画像が、葉子の目に飛び込んできた。  父の料理写真に混じって、黒い制服で給仕をしている葉子の写真がいくつか入っていたのだ。  画像のデータ名が『笑顔、よくなった』、『まだ背筋曲がってる』、『カトラリーを並べる姿、よし』、『ワインを注ぐ姿勢、惜しい』などなど評価のようなものがつけられていた。  葉子はもう、とめどもなく涙が溢れてしかたがなかった。  特に『笑顔、よくなった』に胸が熱くなる。こんな綺麗な顔をした自分を、葉子は自分でも見たことがないと思ったからだ。  きっとこれが『ファインダー越しに見える写真家の目線』なのだろう。  アナタは、たったひとりでも胸を熱くする写真を遺してくれていたんだよ。  なんで。いまわかっちゃったのだろう? あの人が生きているときに、伝えたかったよ。伝えたかった……。  それでも、あの人はあの場所に行くことをやめなかっただろう。  あそこに気が済むまでいたかったのだろう。葉子はそう思う。
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