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あの人の声が聞こえるよ、唄っていると聞こえるよ。
唄え、ハコ。自分のエゴのために唄え。
それはもう誰のためでも、なにのためでもない。
閲覧数が稼げなかったら才能がないと誰も相手にしてくれないと自信喪失するから怖かった。下手な唄だと後ろ指さされるのが怖かった。朝、おなじ時間に湖畔で唄うなんて、気取っているとか、恥ずかしくないのかなと遠巻きに眺められて、遠くからクスクスと笑う声が聞こえてくるなんて、恥ずかしかった。
いまはもうそれはない。
秀星さんとおなじ。ここで、毎日、ほぼおなじ時間に、湖と遠い岳と空へと音を飛ばす。
新年を過ぎ、雪深い季節になって父が報告してくれた。
「特別縁故者として、秀星の写真データを相続することができたよ」
数々の手続きと申請などを経て、彼の身の回りの世話をしていた者として認められた父に、相続許可がでたとのことだった。天涯孤独だった秀星の所有物の一部を、こちらで引き取ることができた。
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