5.名もなき朝の唄 名もなき朝の写真

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「ハコです。配信を始めて九ヶ月。ほぼ毎朝、ここで。今日はここで同じように毎朝この時間に写真を撮影していた私の上司の、命日です」    秀星の死を利用していると言われるだろう。  でもハコは続ける。これもエゴだ。 「皆様が察しているとおり、私は東京で歌手を目指していましたが挫折して、いまここで働いています。夢は叶わなかったけれど、自分が好きなものをそのまま愛して生きていくことをその人が教えてくれました。……いえ、最初はわからなかったんです。でもその人がどうして毎日ここで写真を撮影していたのか。プロにもなれなかったのに、どうして写真のために生き続けているのか。表現者として知りたかったからです」  コメントが続々と入ってくるのが見える。  だがハコにはもう関係がない。 「答えがわかりました。上司は、それをエゴだと言い、それはしあわせなことだとも言っていました。上司は既に近しい縁者がいませんでした。これまで共に家族のように過ごしてきた私の父が特別縁故者として、写真の所有権を申請し手続きが完了いたしました。SNSで私の唄と共に、発信していきます。上司は毎日毎日ここで撮影していましたので、その日の日付に合わせてアップしていきます。上司がエゴだと言っていた、でも、愛してくれた大沼の自然をご覧いただければ、引き継いだ者として嬉しく思います」
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