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「そうだな。よく仕込んでくれたと思ってる。育ててくれて……。いや……、なかなか、下の者にその地位を譲れるもんじゃない。こういうときは、下の者がその地位を与えてくれるところへ転職していくもんだよ。あるいは君のような男なら、他の店に引き抜かれて行くもんだ」
「この仕事は続けるつもりです。生きていくことができませんので」
「だったら……」
「ですが。今後は北海道で暮らしていきます。それが念願でした……。両親も看取りましたし、法事なども落ち着きました。家族はなく、もう自分しかいません。篠田に任せられると思ったのも決意することができたひとつです」
つまり秀星は身軽になってしまったのだ。それが拍車をかけた。あとは仕事をきちんと始末して発つことをすれば、念願の北海道住まいをすることができるようになったのだ。
社長が震えた息を吐いたのを聞く――。
「休みを与えると言ったら? 十日でも半月でも……」
引き留めてくれているとわかっている。有り難い申し出だが、特例は真面目に働いている他スタッフにとっても、良くない影響を運んでくるきっかけともなり得る。
だから秀星はきっぱりと伝える。
「北海道で生活をすることが、次の写真活動でやりたいことなのです。申し訳ありません」
眼を長く伏せ、彼がやっと決意してくれる。
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