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『笑顔よくなった』 撮影:北星秀
保存されているデータ名がこれだった。
彼が毎日撮影していた父の料理の写真と一緒に紛れていた。
ほかにも『まだ背筋曲がってる』、『カトラリーを並べる姿、よし』、『ワインを注ぐ姿勢、惜しい』と、まるで評価のようなものが保存名としてつけられていた。
いつも見てくれていた。私がこの仕事で唄以外で生きていけるように。自分もそうだったからだと思う。好きなことを好きなままでいるための生き方は、北星から教わった。彼が遺してくれた私への財産。
はじめて、自分のことを素直に綺麗と思えた写真。
写真にはそんな力があると、初めて知った写真。
でもわかった時には、それを伝えたい彼はもういなかった。
(ハコ 十和田葉子)
『七月十三日 アミューズ プチトマトのコンポートと蓴菜のカクテル』
撮影:北星秀
大沼特産の蓴菜を添えたアミューズ。
彼が毎日記録してくれたひとつ。
コンポートの味付け試作は、北星も一緒だった。
彼と一緒に探した余市産の白ワインで試すと上出来で、あの静かな男が『美味い、すごい瞬間に立ち合った』と無邪気にはしゃいでいたのを思い出す。
彼と過ごした時間は、料理人人生でも、忘れられない歳月となった。
完璧な接客で厨房にアクセスしてくるため、料理人としても気の引き締まる、良い仕事を実感できるもので、最高のパートナーだった。神戸で手放したくなかった矢嶋社長の気持ちがよくわかる。
どんなことにも丁寧に誠実で真摯な男だった。写真で仕事に支障がでることは一度もなかった。
堅実な彼が『わがまま』をひとつ望むのであれば、最後の撮影がそれだったのだと思う。
その彼がどうしても手に入れたかったものだったというなら、自分もそれを認めて、送り出したいと思う。娘とともに。
これからも彼が遺したものは、娘と守っていく決意です。
(七飯町大沼 フレンチ十和田 シェフ 十和田政則)
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