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「バカにしているんですか!」
いつも『バカ』という言葉を先にぶつけてくるヤツだったから、ひっそりと心の中でため息をついている。
でも否定もできない。秀星は自分で自分のことを『バカ』だと認めているからだ。
「僕がいる間に、僕からメートル・ドテルの地位を奪う――だったよね。それができないうちに僕が逃げていくと、怒っているんだろ。僕を負かさない限り、篠田君は僕からバカと思われていると怒っているんだね。だとしたら、初めて僕は君のことをバカといいたよ、篠田君」
僕も君もバカだ。
大事なものに対して馬鹿になる。
秀星は写真で、篠田はメートル・ドテル。彼こそが、この店に対して崇高な精神を傾けて働いてくれる真のメートル・ドテルだ。仕事を愛しているバカではあっても、『バカ』になんかしていない。
それを彼にわかってほしいと、秀星は思っている。
バカと言い放ったとはいえ、それもいつもの熱血漢からの勢い。
淡々とした秀星の切り返しに我に返った篠田が、すぐに申し訳ない顔になってしゅんと肩をすぼめ小さくなる。
「誰もが桐生さんしかできないと思っているから、全信頼を寄せて任せているんですよ。それを捨てる? あっさり捨てられるものだったんですか。俺たちの店よりも、写真が――」
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