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今日のお客さまは、お母様とお父様を連れた親孝行旅行とのことで、函館で一泊した後は、登別温泉で一泊、洞爺湖を巡って最後は札幌泊で小樽へ向かう旅程だと教えてくれた。
そのお母様も葉子に声をかけてくれる。
「あなたがハコさんなのね。あなたのおかげで、息子が今回の旅行を計画してくれて。そうでなければ、北海道に行こうなんて言ってくれなかったと思うの。ほんとうに感謝」
「はあ、なにいってんの母さん。ハコちゃんがきっかけであって、いつかこうして連れてきてあげたいとちゃんと思ってたよ」
「結婚もしないで仕事ばっかりの子なの。でもこうして旅行をプレゼントしてくれるなら、息子がずっとそばにいて独身でも悪くもないわね~って思いながらきたの。ほんとうに、睡蓮がいっぱいの散策道、素敵でした。私も北星さんの写真集を、息子をキッカケに……」
そこでお母様が葉子の目の前でうつむいた。
「少し納得がいかない結末でしたけれど……。北星さんもご両親がご健在であれば、もしかして……と、この旅行で思いました。家族がいる有り難み、息子にはいつまでも健やかでいてほしいと改めて思うものでした。生前のお写真が優しい分、余計に――」
以前ならこの言葉で、葉子はいちいち傷ついていただろう。
血縁の家族がいれば北星は危険な撮影の決行はしなかったはず。血縁ではない仕事仲間の十和田シェフに葉子では引き留められなかったと言われているようで、落ち込んでいただろう。
いまはもう、そうは思わない。
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