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お出迎えを終え、蒼がホールへと案内していく。
その間に受付のチェックカウンターで、本日の予約表を再度確認しておく。
「あと二十分後に、長野様、6名。本日はお姑様のお誕生日。バースデーケーキを忘れずに。19時には、ツアー経由で名古屋から吉村様の2名、ご夫妻。同じくツアー経由、名古屋から戸田様、ご友人同士のご旅行で5名、それから……」
計七組、の来店だった。これは今夜もホールに厨房はフル回転になるのだろう。
葉子もゲストをおもてなしする心積もりを整えていく。
蒼がホールへと岩崎様のご案内を終えて、カウンターに戻って来た。
「今夜も満席、忙しくなりそうだね」
カウンターで予約表を確認している葉子のそばへと、蒼も黒いジャケット制服姿で並んで一緒に覗き込んだ。
エントランスの受付カウンターの中で、二人並んで予約表を眺めていたが、蒼が再度、腕時計を見た。
「えーっと、ちょっとだけ、蒼くんにもどりまーす」
篠田給仕長としてキリッとしていたスタイルから、ふわんと柔らかくニンマリした『蒼くん』の顔に戻った。
「先ほどのお客様、お母様とお話ししていたこと、大丈夫かな」
「うん。大丈夫だよ」
蒼がそっと、葉子の耳元へと身をかがめてきて、密やかな声で話し出す。
「ごく一般的な感じ方だよ。あのお母様は、母親目線で見てくれたんだ。両親が、家族がいれば、北星はあの撮影は決行しなかったはず。死ぬことはなかったはず。またあのような写真に取り憑かれることもなかったのでは――。そう言いたいんだ」
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