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「わかってるよ。蒼くん。いいの。それがエゴイストという写真集だから。その人の立場で見てもらって、岩崎様のように息子さんが元気でつつがなくご家族でいられることを改めて幸せに思っていける。それだけでも、秀星さんの写真の意味が持たれるの」
「へえ、葉子ちゃん。なんか大きくなったな。ダラシーノ、ちょっと寂し……」
結局、彼はこうして、人の心に対してとてもきめ細やかに感じ取ってくれているんだなと、葉子はこんな時に心が温かになる。
「蒼くんがいつも私のことを見てくれていて、嬉しいよ。大きくなってもどこにも行かないし、ずっとそばにいる」
「きゃっ、葉子ちゃんったら、こんなところでそんな嬉しいことをっ」
途端にいつもの蒼くんの言い方になったから、葉子もすっかり気を抜いて笑い声を漏らしてしまった。
すぐに二人揃って、ハッと我に返った。こんなところも、既にお仕事モードの夫と妻に戻ってしまう。
「いけね。えー、では、十和田さん。行きましょうかね」
「はい。篠田給仕長」
チェックカウンターから離れ、二人揃ってホールへと戻ろうとした時だった。
ガラスドアのむこう、玄関前に、またタクシーが停車したのが見えた。
蒼と顔を見合わせる。一緒にそれぞれの腕時計を眺める。先ほど、揃って予約表を確認した時は、次は二十分後。お客様、早めについちゃったのかな? 葉子がそう思った時にはもう、蒼は給仕長のクールな面差しに戻って、さっと動き出していた。
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