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蒼が玄関を開けようとしていたが、きちんとしたご挨拶の姿勢を給仕長に整えてほしいので、慌てて葉子から玄関のガラス戸を引く把手を握る。それを見た蒼が、お客様と対面になる姿勢を整えた。
ドアが開き、お年を召した白髪のご老人が来店する。
お顔を見る前に、篠田給仕長は深々と頭を下げてお出迎えのお辞儀を見せる。
「いらっしゃいませ」
「あの、予約以外でも、よろしいでしょうか」
当日、飛び込みのお客様だ。これはお断りのパターンだな……と、葉子は申し訳なくなってくる。
今日は満席、ホールも厨房もフル稼働で余裕がない。ただし『例外』を除いては――。
蒼が頭を上げる。少し眼差しを伏せた表情に整えているのを見て、葉子にも『あ、断る』というのがわかった。
「申し訳ありません……」
という表情を見せてから、お客様と目線を合わせる。そこでほのかな微笑みを浮かべて、お断りを示す。
「本日はご予約のみとなっておりまして――」
蒼とご老人の目が合った。
そこで、何故か蒼の言葉が止まった。
いつもの流暢な接客トークが出てこない彼を見て、葉子も訝しむ。
それに、蒼の表情が強ばり、驚きの目をしているのがわかった。この方は、いったい?
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