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2.お土産は二階堂
「はるばる九州から来たのですけれどね。予約のみという注意書きも見つけられなかった」
わ、これはもしや……。葉子はドキドキしてきた。
いやいや、いけない。『お客様の第一印象などで決めつけてはいけない』と、秀星にきっちり仕込まれたので、葉子もいまはなにも思わずに、九州から来てくれたお客様という情報だけインプットしてとどめる。
秀星ならここで、ほんのりした微笑みだけ浮かべて、目は真摯にお客様に向けて謝辞を述べ、『明日であれば……。近辺にお住まいか、或いはご宿泊はどちらか』と、こちらの条件とあちらの条件の境目を探る。
蒼もおなじ。こちらは、謝辞を述べた後は、明るく爽やかな男前フェイスに整え、『明日で……』と言い出すはず――。
なのに蒼は、なんとか微笑みの顔に整えることができたようなのに、なにか考えあぐねている様子で黙っている。
その間にご老人から言い出してしまう。
「明日は私も来られないので、今夜しかないのですが」
さらに葉子はぎょっとして硬直してしまった。
こちら側の『いつもの逃げ道』を塞がれた。
しかも、蒼の様子がおかしい。笑顔が消えているのだ。こんな先手を取られる事なんて滅多にない。
もう、なにかを畏れるようにして硬直しているように見えた。葉子はハラハラ……。もしかして? 神戸のお店にいるときに、なにかあったお客様とここで再会? 決めつけちゃいけないけど、やっぱり、あれこれやりにくいことを要求してくるお客様??
さらにご老人は、肩にかけていたバッグから『エゴイスト』と表紙に書かれている書籍を取り出した。
「この方の作品を見て、ここに来ました」
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