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その写真集を見ただけで蒼が再度背筋を伸ばして、ご老人へとやっといつもの微笑みを優雅に浮かべた。
「遠いところからのご来店、ありがとうございます。お一人様でよろしかったでしょうか」
「はい。一人です」
受けちゃった。いまは予約分しか受け入れていないのに、予約なしのお客様を受け入れちゃった。
葉子は内心唖然としていたが、少し姿勢を崩したように見えた蒼が、キリッと持ち直したので、葉子もいつもの仕事の姿勢へと正す。
「十和田さん、カウンターまでお願いいたします」
「はい。いらっしゃいませ、どうぞ、こちらでお荷物をお預かりいたします」
「あなたが、葉子さん。ハコさんですね」
ああ、視聴者さんの飛び込みかなと葉子は思ったが、いつもの笑顔で応える。
「はい。北星秀の写真集をお持ちくださって、ありがとうございます。動画配信では『ハコ』の、十和田葉子です」
「ありがとうね。秀星の写真をここまでにしてくれて」
え……。葉子は驚き、目を見開きながら、ご老人のお顔を見上げてしまった。
最後、本名を明かしていないのは、亡くなった秀星だけ。彼の名は『北星秀』としてしか知られていないのだから。どうしてこの方が?
秀星の関係者? だったら蒼にも関係者?
葉子が茫然とした隙に、お客様から蒼が控えるカウンターへと向かってしまった。
ペンを握った蒼が、お客様と向き合う。
「……北星の写真集をお持ちくださって、ありがとうございます。受付をさせてください。お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「甲斐です。甲斐の国のカイです」
「ありがとうございます。ご連絡先も教えていただけますでしょうか」
「090……」
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