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「北星の写真集をお持ちの方には、ドリンクのサービスがお一人様につき一杯つくことをご存じでしたでしょうか」
「いいえ。知らなかったのですが、私もそのサービスをいただけるのでしょうか」
「はい、せっかくですので、そちらのサービスも本日おつけいたしますね」
やっと蒼が笑顔を見せたので、葉子もホッとする。
でも――。どうして秀星の本名を知っていたのだろう。そちらが気になって気になって。
「十和田さん。『今夜のお席』にご案内をしてください」
『今夜のお席』とは、予約客なら前もって準備していたテーブルに案内するが、この飛び込みのお客様に関しては、『予約なし飛び込み用、予備席』へと案内をするという意味だった。どんな日も、なるべく一席分を残して用意をしているので、そのテーブルのことを言っているのだと葉子にも通じた。
「かしこまりました。甲斐様、お預かりのお荷物は、こちらのみでよろしかったでしょうか」
手に持っていた土産ものの袋のみを差し出されていたので、既に受け取っていた葉子は、他にはないかと確認をする。
「あなたたちへお土産です。秀星の霊前へ供えてやってくれませんか。会うときはいつも『二階堂』を持って行くと喜んでいたので――」
ほんとうに、この方はどなた?
視聴者がどんなに北星の写真についてあれこれ論じても、もう葉子の心は揺るがなくなった。でも『桐生秀星』としてはそうではない――らしい。葉子は改めて、そう知ってしまった。私の心はまだ『秀星』を感じると、心が泣きたくなるのだ――と。
「十和田さん――」
篠田給仕長の目線が途端に鋭くなり、葉子へと向いていることに気がつく。
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