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葉子の心がセルヴーズとしての心構えを崩して、『ハコ』になっていることを見抜かれている。
「失礼いたしました。給仕長、こちらのお土産をいただいてもよろしいですか」
「甲斐様、ありがとうございます。オーナーの十和田にも伝えておきます。いただきますね」
カウンターから出てきた蒼が、静かに葉子のそばにやってきて、葉子が受け取った土産袋を彼が手に取った。
「懐かしいですね。二階堂、大分焼酎。いつも甲斐さんが帰省した時のお土産でしたもんね」
「だろ。北海道のいまの季節だと、なにを合わせて飲めばいいかねえ」
「函館が近いので、断然、スルメイカの刺身がオススメですね。漁が解禁されたばかりの積丹産のウニも是非、苫小牧のホッキ貝もいまが旬です。フルーツならまだサクランボが出回っておりますので、北海道のサクランボの新鮮さを味わうのもオススメです」
「うむ、スルメイカにウニにホッキ貝、どれも逃せないね。サクランボか、余市か、仁木町かね。すっかり北国の住人じゃないか篠田」
「いえ、フレンチに携わっていればおのずと。地元の食材でというのが、こちらシェフのこだわりでもありますから」
「秀星が選んだ店だけありそうだな。楽しませてもらおう」
やっぱり知り合い! いったいどのようなご関係? 葉子が目を丸くしていると、やっと蒼が致し方ないような笑みを見せて教えてくれる。
「ちょっとだけ、仕事を解除いたしますね。甲斐さん」
「おお、いいぞ。許可しよう」
しかも、蒼よりなんだか偉そう――と葉子が感じたのも束の間、その正体が明かされる。
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