3.男がふと微笑むとき

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「うむ。合格だ、合格。あんなに小うるさいだけ、口だけ達者の小僧だったのに。篠田を跡継ぎとして鍛えた秀星も合格だな」 「小僧って――。やめてくださいよ、もう。彼女の目の前で……」  小うるさい、口だけ達者の若者だったの? でも葉子は『なんだか、わかるー!』と笑みがこぼれそうになったが必死に堪えた。蒼から仕事を取ってしまって、なお若い青年として想像すると、それしか残らない気がするとさえ。 「でも、ありがとうございます。秀星さんも喜んでいる……と……、思います。あ、こんなことでは喜ばないかな」 「あはは。仕事よりも、写真を褒められたほうが、かわいい顔を見せるんだもんな。どうかな」 『あ、こっちのこともわかる』――と、葉子はついに我慢できずに頬が緩んでしまった。  仕事での険しい横顔から、湖畔でカメラを片手に持っている時のほのぼのしたお兄さんの顔のギャップを鮮明に思い出せるほどに。そうか、神戸でも、ずっと前からそうだったんだと、また秀星に会えたようで嬉しくなってしまった。 「そして。聞いたよ。ご結婚、おめでとうございます。さっきの土産に、祝いの品も入っているからな」 「それもご存じでしたか。ありがとうございます。……もしかして、矢嶋社長からですか」 「いや、動画を見てね。ハコの唄チャンネル」 「甲斐さんが動画を! うわ、恥ずかしいな。俺ったら『普段の篠田』ではっちゃけているから」 「そうなんだよな~。仕事以外での、篠田のやかましさそのままで、懐かしくなっちゃってさ。それに、秀星がな……」
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