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普段は優しい顔と温和な雰囲気でほのぼのしているのに、お客様に対しての接し方や料理や食材に対しての敬意の持ち方には厳しかった。
それでも『ハコ』が徐々に真剣に給仕に身を入れるようになったのも、彼がこんなに一流の仕事をするのに『写真家』にこだわっていたからだ。
四十前、独身。まだ夢を諦めていない男が、愛しているカメラを担いで全国さすらいながら、夢を失わないために生きていくために仕事をしている。しかもその仕事を極めている。
そんな人を目の前にして、言える? 夢があるから真剣に生きていく気力を、この仕事には使いたくないだなんて言ったら、夢にも生きていくことにも『負け宣言』をしていると思わされる人だったのだ。
自称・写真家なのは、彼が仕事の傍ら、毎日、愛する大沼公園の景色を撮影しては、誰も見ないSNSにアップしたり、受賞選考にかすりもしないコンテストに応募したりしているからなのだ。その応募経歴から受賞はせずとも、編集部とのツテができるようになったらしい。たまにカットとして使いたいと編集部から申し出があって、ちょっぴりのお小遣いになっているのだと教えてくれた。
彼の生きる本質はその『毎日の撮影』であって、ギャルソンはその夢を続けて支えるための生きていく方法でしかないのだ。
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