20.いつまでも居てほしい

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20.いつまでも居てほしい

 その日も、ディナー開店前の準備で、葉子と甲斐チーフはワインカーブで向き合っていた。 「本日は矢嶋社長が来ますね」 「はい」 「では。かねてより伝えていたとおりに、矢嶋社長にソムリエとしての業務を、今夜は十和田さんに一任いたします」  見習いの『コミ・ソムリエ』なのに、いきなり接客することを許されてしまった。  大きなレストランではまずない。父親がレストランの責任者であって、夫はこのホールの責任者。葉子はここでは娘でもあって妻でもあった。非常に恵まれた状況にいるのだ。  しかも、葉子にこの仕事を教えてくれた恩師・秀星の元上司ですらも、遠い九州から駆けつけて、葉子専属で指導をしてくれている。ほんとうに恵まれている。  しかも、やり手の社長さんが、すぐにテストもしてくれる。そう思うから、だからこそ、『できなくても、堂々とやろう』と、葉子は意を決する。  そんな葉子がわかったのか、甲斐チーフがにこりと笑った。 「力みすぎですよ。矢嶋社長だって、そんないきなり厳しくしませんよ」 「そうですけれど……。なんだか、恵まれすぎていて、いいのかなと思っています」 「下働きとか下積みという点でしたら、葉子さんは桐生給仕長の下で指導を受けるようになってから通算六年。セルヴーズとしては充分な経験です」 「父親の店で、しかもいまは夫が上司です」 「お父様も篠田も、あなたを甘やかしていたなど、私はひとつも感じませんでした。いちばん最初でしょうね。桐生がガツンと二ヶ月目の貴女を叱責したのは――」
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