39.四年目の夜

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39.四年目の夜

 今年も月夜だったが小さい月で、去年より暗く感じた。  今年は蒼が甲斐チーフのサポートをしながら、三月の溶けては凍る危うい雪道をゆっくり歩いて行く。  湖畔に辿り着くと、去年と同じように蒼がテントを立て、シュラフを出して、三人一緒に川の字に寝転がった。  テントの下に、三つの色違いのシュラフが並ぶ。それぞれうつ伏せになって、まっすぐ向こうに広がる湖面を見つめている。今年もところどころ溶けていて、水玉模様の湖面にほんのりと月明かりが反射している。 「すまないなあ。新婚のおふたりの間に入ったりして」 「なにいってんすか。甲斐さんが来てくれて、秀星さんも喜んでいますよ」 「四年前のこの日は、夜中から吹雪だったんだよな?」  去年、蒼が同じ事を聞いてきたなと、葉子はふと微笑んでいた。  だからそこは葉子が答える。 「そうです。もうこの時間から吹雪でした。明け方もずっとホワイトアウト。ですが道民は慣れていて、外で暴風雪になっていても、そのうちに止むから寝ている時は気にしません」  だからこそ。いつもの夜で明け方だった。父が警察から連絡を受けるまでは……。 「なにを思って決断をしたのだろうか」  シュラフに包まれながらうつ伏せの姿でいる甲斐チーフが、ふっと夜空に見える欠けた月を見つめている。  もう、いまの葉子にはわかるし、微笑むことができる。去年ならきっと泣いていただろう。
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