39.四年目の夜

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「吹雪が止む夜明け、新雪が夜明けの色に浮かび上がる。あの写真を撮りたかった。あの色合いの瞬間に秀星さんは取り憑かれていて、ホワイトアウトの中、夜明けの吹雪開けを信じて飛び込んだんだと思います。それが秀星さんの宝石で、それを手に入れたいことが『エゴ』。秀星さんの思いはそこで完結。でも秀星さんは知らない。誰もそこに行き着くことができないから、魅入られていることを」  このホワイトアウトの吹雪が止んだら、僕が撮りたい景色が現れるはず。  そう思って旅立ったのだろう。生きて還るための気遣いも、帰って一緒にいたい親しい人も、秀星がかなぐり捨てた瞬間があったはず。  でも。葉子はもう泣かない。 「チーフが大沼に来てくださったおかげで、いまの私は、秀星さんがいままでの人生で得たことすべてを握りしめて手放さなかったと思えるようになりました。きっといまも――」  夜空にその人がいるなら。  今日はあの星が、秀星さん。  そこで、ハコのことも、篠田君のことも、十和田シェフのことも、深雪さんのことも……。矢嶋社長も、甲斐給仕長のことも、みんなみんな、そこにいるよね。    去年とは違う自分がいて、葉子のそばにはいまも秀星がいる。 ハコちゃん、見てごらん。北斗星とカシオペアが、北極星も見える。北の象徴だね。 写真に撮っておこう。大沼から見える星ははっきりしているし、湖面に映ってなお輝く。 まるで秀星さんの名前のようだね。  きっとそんな会話をしたと思える。  いまも、いっぱいお喋りが出来るよ。  これからもずっと、一緒にいるんだから。
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