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その前から気がつかないうちに蒼のことを受け入れていたけれど、去年のこの日、すべてを蒼に預ける気持ちができあがっていたんだと、葉子は振り返る。
今年、気がついたこともある。
秀星がいつどうしてこの夜、ここに向かってきたかを考えてもしようがないのに、しんみりと考えているメートル二人に向けて、葉子も呟く。
「あの写真とおなじ景色を、いつか見ていたと思うんです」
蒼が真ん中にいて、その向こうに甲斐チーフがいるのだが、二人が端にいる葉子へと一斉に視線を向けてきた。
「大沼に、その前にも一度来ていたらしいから。その時に、同じ景色を見たんじゃないか、最近ふとそう思えることがありました。だから大沼に来たんです、秀星さん。でも人には決して知られたくない『大事な絶景』だったんじゃないかと思うんです」
三人一緒にシュラフに入って、うつ伏せでカップ片手に、湖と夜空を見つめている。
四年前に秀星が撮影していた位置も、すぐそこ。ホワイトアウトにならない限り、あの瞬間には出会えないから。ここにいる三人も、どんなに目を凝らしても、穏やかな夜の雪景色しか見えない。あの景色は決意した男にしか手に入らないものだったのだ。
「その時もまさか、吹雪の中、湖畔に来ていたのかな。先輩……」
「見てしまったから、今度は撮りたくなった。だが、ホワイトアウトの中から準備をして、その瞬間を待つしかない。危険とわかっているから、決断できずに四年……ということだったのかもしれないな」
四年経って、今度はもう一人秀星を知る人『甲斐チーフ』も加わって、見えなかったものが少しずつ見えてくる。
そうして彼を弔う者たちは、突然の別れを納得していく。
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