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40.私の北極星
「秀星が矢嶋社長に連れられて引き抜かれてやてってきた時、篠田はそこに元々いたギャルソンの先輩に媚び売っていたんだよな」
「媚びって! 慕っていたと言ってくださいよ! だって当時、いちばんのリーダーだったじゃないですかあ」
「あまり褒められたリーダー『シェフ・ド・ラン』ではなかったな。だから、私もメートル・ドテルを引き継ぐ候補から外したんだから」
あまり良くない先輩が蒼のそばにいたんだと、葉子は初めて知る。
彼が苦労した話、聞かないほうが良かったかなと後悔が襲ってきた。葉子は、夫の若い頃を知りたいばっかりに聞いてしまった気持ちをなだめるように、ホットワインを呷る。
「秀星が来て正解だっただろ。職場の空気が浄化されたし、ギャルソンの統率もできた。矢嶋社長も気がついていたから、知らぬ顔をしつつ、外から候補を連れてきたんだよ。そのかわり、今井は辞めてしまったけれどな」
「でも。秀星先輩だって、こう、なんか、いけすかない言い方するんですよ……」
いけすかない言い方。葉子も仕事中はけっこう厳しく言われたことを思い出して、あれのことかなと思い出していたが、いけすかないとは思ってはいなかった。
でも確かに、プライベートのほのぼのお兄さんを知っていたから、信じて従っていたところはある。あれを知らないと、無表情で厳しいだけの男に見えたかもしれない?
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