40.私の北極星

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 四年前の今日、この時間は吹雪だった。  三年前のこの日、葉子はここで『今日から上司の写真を毎日アップする』と告知をした。  二年前の今日もここで唄っていた、三回忌、父と母と花を手向けた。  一年前のこの日、『先生さよなら』と彼を心の奥に宿して、蒼という男性の手を取って、やっと歩き始めた。  四年目。今日。また秀星が連れてきてくれた新しい先生と一緒に、これからを誓う。  秀星が逝っただろう時間はもう夜が明けて、薄明るい朝日の中、所々氷が溶けた水玉模様の湖面と駒ヶ岳が姿を見せる。 「ハコちゃん、行きますよ」 「はい。ダラシーノさん、OKです」 「5,4,3,2……」  キューの手合図が蒼から送られてきて、葉子はカメラの前にギターを持った姿で佇む。  今日もここで、ライブ配信をする。  告知はしていない。気がついた人だけ視てくれたらいい。あとから視てくれてもいい。 「おはようございます。ハコです。今日は北星秀の命日です。四年前のこの日この時、彼はここでカメラで撮影をしていました。彼が逝去してから四年――」  これからを誓うハコの動画配信が始まる。 「去年の夏、お師匠さんが突然、フレンチ十和田を訪ねてきて一緒に働くことになりました。大沼にいる私のところに、いつも北星が、私に新しい(えにし)を運んできてくれる。いつもそう思っています。夫になったダラシーノさん、私にソムリエになる後押しをしてくれたお師匠さん。北星を始め、この三人は私のメートル・ドテル、大事な三人の先生です。だからこそ、もう哀しんでばかりいないで、北星を胸に、また今日から新しい一年を迎えていきます」  カメラに向かって葉子は微笑む。
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