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41.星の薫り
「本日のワインリストです。こちらのボトルを準備してください」
「はい。甲斐チーフ」
この日もワインカーブで、甲斐チーフと向き合っている。
渡されたワインリストを片手に、葉子はワインをストックしている棚を見て回る。
アペリティフに七飯町産スパークリングワイン、小樽産のデザートワイン。今日のグラスワイン、小樽のナイアガラ白ワインと池田町産の十勝の赤ワイン、トカップを探す。
秀星の命日を三人一緒に迎えた後も、甲斐チーフと一緒に日々の業務をこなしていた。
三月半ば、その人はもう、フレンチ十和田に来ていた。
「甲斐さん。来月仕入れの確認をお願いします」
その人が上階からワインカーブへと階段を降りて現れる。
フレンチ十和田、初のソムリエに就いた西園寺チーフ。既に勤務に入って、彼専門でできる仕事を甲斐チーフが任せるようになっている。
カーブにある立ち飲み用の丸テーブルは、いまは甲斐チーフのデスクのようになっている。
そこに、西園寺チーフが仕入れ票を見えるように置いた。
甲斐チーフがそれを手に取り、眺める。
「どれどれ」
「十和田シェフと篠田給仕長の許可を得て、チリとオーストラリア、カリフォルニア産、海外のものを少し増やしました」
「うん、いいセレクトですね。葉子さんにテイスティングさせてくださいね」
「わかりました」
「いま、葉子さんが本日のアルコールを持ってきます。準備の指導と監督をお願いします。西園寺チーフ」
ボトルを集めて丸テーブルに最後の1本を置くと、その人が葉子を見下ろした。
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