41.星の薫り

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 三月になると日が長くなり、ディナータイム前の時間でも、外はほの明るい。大沼に優しい夕の茜が残っている。駒ヶ岳もうっすらと紅色に染まって静かに佇んでいるのが、厨房の開いている窓から見えた。  西園寺チーフが、じっとその窓辺を、遠い目で見つめていた。 「いい夕暮れだね。新しい家からも見えるかな」  蒼がレストランから徒歩で通える一軒家を見つけていた。西園寺チーフもご家族も気に入ってくれ、その家に既に移り住んでいた。  今日もそこでは、奥様とお子様がご主人を送り出し帰りを待っているはず。  だからなのか。葉子には、とても温かな眼差しに見えたのだ。やっと感情を宿している新しい上司の横顔に、つい見とれていた。  確かに美形だった。まつげは長いし、鼻筋は通っているし、目鼻立ちくっきりしていて、西洋の彫刻にある男性みたいなお顔だった。なのにサイボーグのように硬い顔しかしない。だから石膏なんて思い出してしまうのかもと葉子は思っていた。  でも愛する人を想うときは、こんな素敵な目をするんだと、葉子は魅入ってしまっていたのだ。  それは女性としてではなく、彼がどれだけ美しいかを純粋に感じているだけ。だから葉子も淡々と答える。 「あちらのお家でしたら、二階から見えると思いますよ」 「いい家を探してくれたと感謝しています。篠田給仕長にも、奥様としてお伝えください」 「……ここでは、妻ではないので。ついでに、シェフの娘という遠慮もいりません」 「いえ、そこに助けられることも、これからあると思っています。その代わり、ソムリエとして育て上げるつもりです」  サイボーグのお顔に戻っちゃったと葉子は思った。
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