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「西園寺チーフ、できました」
空が薄暗くなってきたころに、ディナーに向けたアルコールの準備を終える。
準備したワインの味を、西園寺チーフも銀のテスターを指に引っかけて確認をする。
夕闇の大沼が白樺木立の向こうに見える窓があるそこで、美しくも険しい眼差しをしている男が、背筋を伸ばして銀のテスターを口元へと傾ける。
目を瞑って、じっとしている横顔――。
あ、似てる。
葉子はふとそう思ったのだ。
「いいですね。甲斐チーフがきちんと指導してきたことがよくわかります」
あ、それも似てる。
秀星に似てる。
仕事中はそのためだけの神経を尖らせている厳しい目。なのに澄んでいる声と目。
秀星と一緒だと思った。
これからまた、この新しいメートルが、たくさんのことを運んでくる。
葉子は微笑まずにいられなかった。
そんな葉子の笑みに、西園寺チーフも気がついた。
「認めましたが、だからとて、気を抜かれたら困りますよ」
「はい……」
まだ笑みが止まらない。
「十和田さん、なんですか。なにかおかしいことでも?」
「桐生給仕長に似ているなと思ってしまいました」
さすがにサイボーグの彼が、ギョッとした顔をした。
「いや、それはないだろう?」
「似ていました。そのテスターで味見をする姿がそっくりでした」
「いや、それは困る。あんなできるメートル・ドテルだった方と一緒だなんて」
「いえ。きっと同じだと思います。心構えとかきっと」
「ないない。絶対にないから!」
あ、なんか砕けた言い方に崩れたと葉子はますます笑みを見せてしまった。
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