41.星の薫り

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 それを西園寺チーフも気がついたようで、焦るようにしてサイボーグのお顔に必死に戻している。 「ふう、なんだか、俺が知っているメートル・ドテルや矢嶋社長が、ここに向かってしまったのはどうしてかわかってしまったような、そうでないような」 「なにもしていないと、いつも父と母とも言っているんですよ。大沼と駒ヶ岳のせいかもしれないですね」 「そうかもしれない……」  また綺麗な横顔で、もう夕闇に溶け込んでいく湖と駒ヶ岳を遠く見つめている。  哀しげな目をされるから、余計に魅力的に見えるのだろうかと葉子も見つめていた。  なにかあって、この人も大沼に来たような気がする……。 「桐生給仕長は、自分の目標でもありました。揺るがない信念をお持ちの方。なのにフレンチではなくて、写真が生き甲斐だった……」 「チーフから見られても、そんなメートル・ドテルだったんですね。秀星さんは……」 「こう言っては、なんですけれど。篠田給仕長は温かみがあって親しみやすく店の雰囲気が明るくなるそんな上司でした。ですが、桐生給仕長はこう、空気がピンと張って澄んでいくという気高さがあったような……。理想高く挑んでいく鋭さに憧れていましたね」 「わかります。夫の蒼君は、ぜんぜん秀星さんに勝てないみたいなんですよ。いっつもふざけているし、最初に来た時から騒々しくて『なにこの人、秀星さんじゃなきゃヤダ』と思うほど、まったく思わぬ人が派遣されてきて、ため息ついていましたから。それにしつこく、私の行く先についてくるし、動画配信中に大きな声を出すし……。落ち着きないですからね」  妻として冷たく言ってみたら、西園寺チーフが目を丸くしている。
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