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ちょっと砕けた空気にしようと思っての事だったが、家族の顔を出しすぎたかなと葉子は少し怖じ気づく。
「いや、ちょっと待って。ずるいな。妻だから言えることだからって、その……、とおり……というか」
サイボーグ君と聞いていたけれど、西園寺チーフは口元に拳を当て必死に笑いを堪えている。
なのに、もうクスクスと笑い出して、彼もそのまま止まらなくなってしまったようだった。
なんだ、ぜんぜんサイボーグじゃないじゃん――と、葉子も嬉しくなってくる。
そう思ったら、ちょうど厨房に入ってきた蒼がこちらを見てギョッとしていた。
西園寺君が笑っている――と驚きおののいている。
ディナー開始前、葉子がホールに出てくると、蒼がすぐに隣に並んできた。
「葉子ちゃーん、西園寺君をどうやって笑わせたのかなあ。知りたいなあ」
「別に。夫としての蒼君のことを話していただけだよ」
「わ、ちょっと! プライベートを持ち出して、俺を笑いのネタにすんの禁止だからね」
「普通に皆が知っているだろう蒼君のことを話したら笑ったんだよ。蒼君、神戸でもさんざん皆を笑わせていたんでしょう」
「そりゃあ、そうだけどー。その時だって西園寺君は笑ってくれなかったんだよぅ」
「神戸だったからじゃないですか。大沼では、たくさん笑ってくれるかもしれませんよ。篠田給仕長」
葉子はすっと蒼から離れた。カトラリーが揃っているかどうか、最後のチェックを江藤君としているのに、まだ蒼がついてくる。
「えーっとね。葉子ちゃん。えーっとね、西園寺君、めっちゃ美形でしょ。あのねえ」
美形の若い男が妻の上司になって、ちょっと気にしているのかなと葉子は気がついた。
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