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食材の産地、生産者の顔に想いまで、彼は仕入れてきて語ってくれる。
本当はこの仕事が好きなんじゃないかと葉子は思い始めていた。
でも違った。
「全部、僕が撮る写真に繋がることだからね。表面だけ見えても写真にならないよ」
――と、如何にも写真家らしいことを言うのだ。
ほんとうにそのように思えてしまうし、でも、彼は自称・写真家であってプロではない。
でも。葉子はだんだんとわからなくなってくる。
『○○家』てなに? プロってなに?
自分はプロじゃないけれど、写真家になりたいから頑張っているという人が、この仕事も写真家のうちのひとつだからと、部下まで懸命に育ててくれるのだから。
でも一理あると、葉子も思うようになった。
唄だっておなじじゃないか? 世の中にある様々なものに思いを馳せること、まず自分が生きることに一生懸命になること。そこから歌詞が声が表現が生きてくるのではないか?
でも。あの人、プロじゃない。
でも。言ってることわかる、なんでだろう?
もう二十代も後半が目の前になって焦っているのに、諦めきれない辛い日々だと思っていた。
でも、ハコも始めた。都市部に通うボイスレッスンと、ジョギングと、発声練習。
無駄じゃない。いや、やりたいんだ。いや、捨てられないからやるんだ。やりたいからやるんだ。
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