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父よりは若く、親子ほど歳が離れてるともいえず、だからとてお兄さんとも言えないほど年上の男性。敬意はあれど、ほのかな恋心もなく、でも葉子にとってはどこか居心地のよい人だった。
それは彼も一緒だったのかもしれない。
ハコも東京で夢破れ、でも諦めていない。もがきながら日々を過ごして、でもなんとか脱落しないよう社会人としての最低限の行動を維持して生きていること。 彼はなにもいわなかったけれど、若いときの自分と重ねているのかもしれない。
湖畔の東屋でいつものひとときを過ごして、彼が先に徒歩で帰る。
葉子はジョギングでレストランがある実家にもどる。
ランチタイム前、営業開始。
その時には、二人揃って黒い制服を着込み、背筋を伸ばす。
湖畔でほのぼのと自然と戯れていたおじさんが、ビシッと凜々しく涼しげな佇まいとなり一流のメートル・ドテルに変身する。
葉子はそんな彼を見るのが、そばにいるのが、好きだった。たぶんそんな彼に仕事を教えてもらい一緒にいることが『誇り』だったと、亡くなったいまは思う……。
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