【4】僕は天使?

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<後編>  人の波をかき分け、僕の手を引いてステージまで連れてってくれたジキーが耳元で囁いた。 ”彼はあそこにいるよ、俺のエルトン” 僕は頷いて、マイクを自分の口元に合わせた。 そして、みのりんを見つめて言った。 ”今の僕の気持ちを表した有名なこの曲をあなたに捧げます” ピアノに向って息を整えて…… イントロに入る…… ♪~ It’s a little bit funny this feeling inside ~♪ ♪~ "もし僕にお金があったら、君と一緒に住める家を買うよ" ~♪ ♪~ "今の僕にできる最大のことは君のために歌を作って歌うこと" ~♪ ♪~ "できたばかりのこの歌を、君の歌だってみんなに言っていいんだよ" ~♪ ♪~ How wonderful life is while you’re in the world ~♪ 指は滑らかに動き、口からは僕の気持ちが溢れる。 ただ、彼を見つめて、曲に身を任せて歌い上げる。 アウトロが終わると、 一斉に ''ブラボー!" "いいぞ! " "グレイト!" "ビューティフル!" 掛け声や口笛、拍手が聞こえた。 みんながしていたようにスマホに向ってお辞儀をしてステージを降りた。 ステージ横で待ってたジギーが驚いた顔して、両手を広げた。 ”こっちへおいで、感動したよ” そう言って困った顔をして、僕の目を拭いた。 どうやら僕は泣いていたらしい。 なんだか体の力が抜けて、すっぽりジギーの胸の中に収まった。 ジギーのそこは柔らかくっていい匂いがして温かかった。 そんな安全な場所から視線をあげると、離れた場所にみのりんがいるのが見えた。 僕も彼に送ることのできる精一杯の贈り物ができたように思って嬉しくなった。 みのりんが上を見る。その視線を辿ったら、そこには誰かの顔があった。 僕と同じように誰かの腕の中にいる。 身体中が悲鳴を上げる。 僕を拘束する腕に力が入って、身動きが取れない。 ”ジギー、ジギー離して、僕行かないと、取り戻さないと” ”あれは彼の恋人じゃないよ。大丈夫。プレスト・サンクのメンバーだよ。あれは仲間のハグさ” 無理やり、ジギーが僕の顔をジギーに向けさせた。 ”ほら、俺たちもハグしてるだろ? 彼も璃音のパフォーマンスに釘付けだった。知ってるかい? 彼は一度も璃音から目を離さなかった。こんなに美しく才能豊かな璃音を誰が拒めるというんだい?” そう言って、何度も僕の額に唇を当てた。 ”賢い璃音なら、わかってるはずさ、そうだろう?”  ”それに彼は困ってるようだよ。しつこい男たちに絡まれて” ”助けに行こう” そう言って、ジギーは僕の手を引いて、みのりんを目指して歩いた。 バックには今度リリースする十枚目のアルバム『MUSE(ミューズ)』の第一曲目になる予定の『ANGIE(アンジー)』のヘヴィなエフェクトバリバリの耳に残るギターリフが大音量で流れている。 いつしか僕はそのリズムに合わせて自ら進軍するような足取りで歩いていた。 ホールにいる客はノリノリになって、生演奏を楽しんでいる。 とーちゃんとは別人の、アーティスト久遠の声が切なげにメロディに乗っかって流れてくる。 もう少しで、みのりんに辿り着く。耳元にジギーの口が寄せられる。 “いいかい、ここではこれぐらい寄らないと聞こえない! 彼に挨拶してさっきのバーカウンターへ誘うんだ。できる?!” こくっこくっと頷く。 ”いいかい? 行くよ!” ニコニコしているみのりんが隣にいて僕を見ている! 今、僕はジギーとみのりんに挟まれる形で背の高い椅子に腰掛けてるんだ! ホールで話しかけたけど音が大きすぎて、近寄るとみのりんのいい香りがして、僕の心臓もうるさく跳ね出して、話にならなかった。そうしたら、みのりんからバーカウンターの方へ移動してくれた。 「さっきの歌、璃音くんだったんだね。もの凄く良かったよ! 俺、英語の意味もわからないけど、泣いちゃったよ」 「そりゃあ、心を込めて、歌ったもんね」 何もしゃべれなくなった僕をジギーがフォローしてくれる。 「素晴らしかったよ! 本当、ピアノもできて、歌も、英語も、あっ英語は当たり前かぁ、ははは」 ジギーが肘で僕をつつく。 「あ、ありがとう……」 「今日の璃音はどう?」 「え?! あっ、あの、その、女の子かと思ったんですよ! 凄く、本当、凄く綺麗でっ、男の子なのに、今もドキドキしちゃってます、おかしいですよね? ははは」 『僕が?! 綺麗で? ドキドキ? 綺麗で、ドキドキ? 綺麗でドキドキ?……』 みのりんの声が脳内で、エフェクトがかかって、何度も再生される。 硬い声でジギーが話を変えた。 「次のアルバムは久遠さんがプロデュースするんだっけ?」 「あっそうなんですよ! また、お願いできるなんて、凄く光栄です! イスエンの、久遠さんの曲、大好きなんでっ」 ああ、みのりんの声が脳内で甘くこだまする。 『大好きなんで、大好きなんで、大好きなんで……』 「あれ? タンブラー持参なの?」 「あっこれですか? 俺、すぐ風邪ひいちゃうし、自分で栄養ドリンク作ってるんですよ」 「え? 自分で?」 「そうなんです。ジムのトレーナーさんから教えてもらったんですよ」 「ふぅん、トレーナー、ね。 味はどう?」 「んー、美味しいかな? 健康によくても美味しくないと続けられないし」 「味見させてくれる?」 「えっ?! お、俺の飲みかけですけど、いいんですか?」 「もちろん、いいよ。美味しいならレシピ教えて欲しいな。俺も食べれないこと多いからさ、仕事的に」 「ああ、モデルさんですよね? はい、どうぞ」 「ありがとう、あ、璃音も飲ませてもらう?」 ジギーがみのりんのタンブラーを渡してキターっっつ さっきまで心臓が心臓の位置で、ドクンドクンしてたのに、心臓が頭に移動してきたみたいに頭の中でドクンドクン言い出した。 タンブラーの飲み口に恐る恐る唇を近づけて、一口飲んだ。 まるで身体中が(とろ)けるように甘くて、頭の中がぼーっとなった。 まるでみのりんに、みのりんの唇に、ちゅうしているようで、それはとても、とても柔らかく感じた。ぴったりしたジーンズの中が熱くなって、キツくって、なんだか苦しい。僕は、僕は……、 「(みのり)っ! ここに居たんだ! 挨拶回り行くよ!」 「あっ春樹! ロケ終わったんだね! お疲れ様!  そっかぁ、残念だけど行かないと。ごめんね、じゃぁまた……」 「あ、今度、う、うちに……」 「え? 何?!」 すごい怖い顔で、プレサンのイエローがみのりんの代わりに応えた。 「次なんて、ないから」 僕にだけ聞こえるように言って、イエローがみのりんを引っ張って行ってしまった。 僕の手にタンブラーを残したまま……。 ◆◆◆あとがき◆◆◆ ここまでご覧いただきまして、ありがとうございます。 ハッピーエンドっぽくない終わり方で「タグ」詐欺っぽくなり恐縮です。 いずれ、機会を見つけてラブラブに… これじゃぁ長編になっちゃう?(´・ω・`)! 🌟投げや、本棚登録しておいて頂くと、気に入ってもらえたと勘違いするポジティブタイプで、ウキウキして続きを妄想し始める可能性大でございます。 
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