電脳かまいたち

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「ハル? 寝てるのか、ハル?」 俺は目の前の扉をノックした。妹の部屋の扉だ。 もう三日も返事がない。 今年15になった妹は、いわゆる引きこもりで、何日も部屋から出てこないなんてのはしょっちゅうだった。部屋には冷蔵庫も備え付けているので、ある程度は飲み食いも出来る。だから最初はあまり気にしていなかった。 でも、こうして声をかければ返事はしてくれていた。寝ているときは仕方ないが、起きていれば何かしらの反応があったのだ。 それが、丸三日。さすがにたまたま返事がないだけとは考えられなくなってきていた。 生きているのか? まさか、自殺、とか? 時間が経つにつれてどんどん悪いほうへ悪いほうへと思考が流れていく。 そうでなくても、本当に妹の身に何かが起きているのであれば一刻を争う。もしそんな状況で三日も放っておかれていたなら…… ……いいや、違う! 違う!! そんなはずはない。そう自分に言い聞かせるものの、俺の胸中は穏やかではなかった。 いつまでもこのままとはいかない。もし勘違いなら、俺が怒鳴られれば済む話だ。そう何度も繰り返し、俺は妹の部屋に乗り込むことにした。 「……入るぞ!」 もし起きていたなら怒鳴られていたであろう大声でもう一度だけ声を掛け、俺は妹の部屋のドアを押し開けた。 俺はホッとした。 パジャマ姿の妹は自分のデスクに突っ伏して寝ているだけの様だった。 一瞬、最悪の可能性が頭を過ったが、その背中が確かな生命反応によって上下しているのを確認してその可能性もなくなった。 「ほら、ベッドで寝ろって」 揺すってみるが、起きる気配がない。仕方がないのでベッドまで運んでやることにした。 いくら運動不足の女子とはいえ、齢15の人間だ。片手で持ち運ぶなんて芸当はできない。俺は妹を抱きかかえるため椅子ごと妹をデスクから引きはがし……違和感を覚えた。 妹は、いつも通りだ。全身脱力しただらしない姿ではあるが、可愛い。 机の上には、妹のために俺が作成したゲーミングPCのモニターとキーボード。妹のスマートフォン。それから直前まで妹が食べていたと思われる、中身の半分ほど残ったポテトチップスがある。 そのポテトチップスを食べてみる。完全に湿気っている。妹はいつから寝こけていたのだろうか。 心配になりながらPCの画面に目をやり……俺の心臓は凍り付いた。 モニターにはとあるオンラインゲームのゲーム画面が出力されていた。 画面中央には妹が使用しているアバターが表示され、画面端には様々なアイコンやステータスを表す表示がぐるりと映し出されている。 それらの一角、他プレイヤーとのチャット会話から俺は目が離せなかった。 チャットの内容はそれほどおかしなものではない。「どうした?」とか「寝落ちか?」とか、急に反応が無くなったのであろう妹を心配しているものだ。 問題は、そのやり取りがあった時間。 ……三日前の夕方だ。妹の反応が無くなり、他プレイヤーから心配されていた時刻は。その後も心配した他プレイヤーが何度か声を掛けているが、妹は一切返事をしていない。 嫌な汗が背中を伝う。 つまり、こういうことではないのか。 妹は三日前の夕方から、一度も目を覚ましていないのだと。 それも、突然に意識を失って。
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