電脳かまいたち

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「なるほど、それでその原因調査、および解決のご依頼と」 鏑井 躑躅(かぶらい つつじ)は依頼主の話を一通り聞き終えると、やや温くなったコーヒーに口をつけた。 ここは『鏑井探偵事務所』のオフィス内。整理整頓が行き届き綺麗ではあるものの、オフィス内には鏑井一人しかいなかった。 その鏑井の容姿だが、どうにもちぐはぐであった。歳は20代前半。大学4年生である誠二郎よりは大人に見えるがまだ若さが残る。にもかかわらず身に着けた靴やスーツは高級品で、しっかりアイロンがかけられ皴一つない。一方で髪には気を配っていないらしく、ぼさぼさというわけではないが、ワックスで固めるようなことはせず適当に撫でつけているだけだ。極めつけはジャラジャラと腕に巻かれた数珠。略式の小さなものではなく、ちゃんと百八つの珠がある本式のものだ。 スーツに数珠。職業、探偵。胡散臭いことこの上ない。 そして、鏑井は依頼主の話こそ聞いてはいるものの、その目線はずっと目の前のノートPCに釘付けだった。 やっぱり相談する相手を間違えた……依頼主――嘉数(かかず)誠二郎は嘆息した。 誠二郎がこの『鏑井探偵事務所』を訪れたのも偶然ではない。その理由は彼が握っているチラシにある。 『原因不明の傷害、昏倒案件承ります。相談無料。前払い無し』 怪しい。はっきり言って怪しいのだが、藁をも掴む思いだった誠二郎は「相談無料なら、話だけでも」と足を運んでしまった。今では激しく後悔している。 「このこと警察や病院には?」 「……相談しましたが、原因すらわかりません」 鏑井の目線はノートPCに向いたままだ。 「ふむ……わかりました、今から妹さんを見に行きましょう」 「……え」 唐突な訪問発言に誠二郎の顔が引き攣る。今まさに相談したことを後悔していて、この後それとなく断ろうとしていたのだから当然だ。 「いえ、あの、やっぱりこのは無かったことに……」 「このは、恐らくの領分です」 今までPCの画面しか見ていなかった鏑井が、スッと目線を上げ誠二郎を見据えた。心の内を見透かすかのようなその目に、思わず誠二郎は目を逸らした。 誠二郎のその態度をどう捉えたのか、鏑井は思い出したように言葉を続ける。 「依頼料はお気になさらず。達成報酬で結構ですので、妹さんが目を覚ましたらで大丈夫ですよ」 「い、いえ、でも」 「まぁ、もう住所は教えて頂いたので断られても行くんですけどね」 そう言ってからからと笑う鏑井の手には、最初に誠二郎が記入した依頼書が握られていた。そこには誠二郎の名前と住所が確かに記載されている。 誠二郎は肩を落とした。こんな厄介な奴に目を付けられるとは、やはり思い付きで動くべきではなかった。家に来られても鏑井が勝手に入れば不法侵入になるが、だからと言ってただ中に入れなければ良いという話ではない。家がバレているということは付き纏われる可能性があるということだ。もしそうなったらストーカー被害の届け出でも出そうか。誠二郎がそう考えて頭を抱えようとした時、鏑井がからから笑いを止めて立ち上がった。 「ひとつ、宣言しておきます」 「な、なに?」 「妹さんの件、僕らの想定通りなら警察にも医者にも解決できません」 それはひどく自信に満ちた声色だった。 「嘉数 誠二郎さん。『電脳かまいたち』というものをご存じですか?」
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