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「妹には手を出すなよ」
誠二郎は念を押すように再びそう言うと、問題の部屋の扉を開けた。
その部屋は何とも生活感に溢れていた。溜まったゴミ箱と脱ぎ散らかされた服、デスクの上には食べかけのお菓子と電源が入りっぱなしのモニターがある。違和感があるのは、昼なのに閉め切られているカーテンとベッドの上で綺麗に横たわる少女くらいだ。
「妹さんの部屋は、あなたが入った時と同じ状態ですか?」
「あいつをベッドに移したこと以外はな」
誠二郎への問いかけと同時に鏑井はデスクへ向かうと、その上に置かれていたスマートフォンを手に取った。ご丁寧に真っ白い手袋を嵌めている。刑事ドラマなどでよく見るものだ。
「これの中は見ましたか?」
「見てない。というか、いくら妹でも普通他人のスマホの中なんか見れないだろ。ロックだって外せない」
「そうですか」
鏑井の反応は薄い。誠二郎の答えが想像通りだったのか、あるいは最初からどちらでもよかったのか。しばらくスマートフォンを眺めた誠二郎は、それを連れの少年に手渡した。
「少し調べますね」
「……壊すなよ」
誠二郎は苦虫を嚙み潰したような顔で了承する。大切な妹の私物だ。出会って数時間の人物に弄られるのは気持ちのいいことではない。
「さて、調べてもらっている間に、探偵らしいことをしてみましょうか」
「何か分かったのか?」
誠二郎の声色が、不満ばかりだったものから不安と期待が綯い交ぜになったものへと変わる。
「そうですね、僕らの想像通りだと言っておきましょうか……まず、あなたはどうして僕らのところへ来たのかというところから始まります」
「は? いや、だから妹のことを調査してもらうために」
「ええ、そうです。意識不明となった妹さんの調査、原因究明とその解決。何もおかしなところはない……本当にそうでしょうか?」
「……何が言いたい?」
誠二郎が鏑井を睨む。当然だろう。なにせその言い方では誠二郎のことを疑っていると言っているようなものだ。
「妹さんのこと、警察には?」
「さっきも言わなかったか? 警察にも医者にも相談したけど」
「それです」
「……それ、ってのは」
「相談した……そう言いましたが、普通は事件や事故があった場合、警察には通報するものですし、医者には診せるものでしょう」
「それ、は」
誠二郎が言い淀む。
「もちろん、ただの言い間違いやその人の癖と言った場合もあります。ですが、仮にそれが真実だとしたら……あなたは何故、警察や医者ではなく僕らのところにやってきたのか……ネコ」
「はい」
「っ! おい、なんだ!?」
鏑井の呼びかけに、今までただ立っていただけのフード少女が突然誠二郎の腕を掴み、拘束した。
「相談はしたのでしょう。おそらく文面通り、言葉だけの相談を。しかしちゃんとした通報はしておらず、診察も受けさせていない。違いますか?」
「……」
「そうであるなら、あなたが警察や医者を避けたことには理由があるはずです。彼らに協力を要請する以上見せなければならず、けれど見せてしまっては都合が悪い何か……ねえ、嘉数さん。あなた、繰り返し言ってましたよね」
部屋の中をゆっくりと歩き回りながら鏑井は朗々と語っていた鏑井は、ある一点でぴたりと足を止めた。ベッド脇だ。
「妹には手を出すな」
「!!! っおい!! やめろ!!!」
そして鏑井はベッドに横たわる少女のお腹に手を伸ばし、彼女の服を一気に捲り上げた。
「これは虐待の跡ですか?」
肌を露わにされた少女。
その身体には無数の切り傷の跡がついていた。
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