電脳かまいたち

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その後の出来事はあっという間で、俺にはよくわからなかった。 突然大きな獣が現われたと思ったら、フード少女がもの凄い速さ、文字通り目にも止まらないスピードでその獣に飛び掛かり、取り押さえた。 床に押し付けられている獣に鏑井が近づくと、鏑井の持っていた手のひらサイズの木箱らしきものにその獣が吸い込まれていった。 あいつの言葉を信じるなら、あのフード少女も鏑井も普通の人間ではないのだろう。 分からないことだらけだが、確かなことがある。 「……あれ、兄さん?」 「ハル! 良かった心配したぞ……!」 「ちょっ、なに、なんなの!? 妹の部屋に押しかけていきなり抱き着くとか、ちょ、やめてよ!」 「お前、三日も眠ったままだったんだぞ」 「ええ? うそでしょ?」 妹が目を覚ました。 それだけじゃない。 「傷、見せてみろ」 「……妹の身体見たいとか、やっぱ兄さん、変態?」 「ち、ちが、俺はただ心配で」 「あれ?」 「!? なんだ、やっぱりどこか変なのか!?」 「変、というか、治ってる……?」 妹の怪我がきれいさっぱり、跡すらもなくなっていた。 何か酷い詐欺にでもあったような気分だったが、いっそ詐欺だったとしても構わない。そう思った。 あの詐欺師(おんじん)たちが帰り際に言っていたことを思い出す。 「これはいわば応急処置です。放っておけば再発する可能性があります。まあ、この呪いの主たちには相応の報いを受けさせますが……それも根本の解決ではありません。どうすればいいか、レクチャーは必要ですか?」 必要ない。そう答えた。 どうすればいいのか、どうしなければならないのかは分かっている。 簡単なことではない。だが、やる。もう二度と、苦しめさせない。 そう、誓う。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 「呪詛返しも終わったぞ」 PC越しにコトから報告が入る。 「ごくろうさまです」 「んで、なんで全額貰わなかった?」 コトはそのまま詰問しだす。内容は先日の嘉数ハルさんの件だ。 あの日鏑井は、兄の誠二郎が差し出した成功報酬を、半分ほど断っている。 「さすがにあんな大金貰えませんよ」 「そう言う割には、結構貰ってた」 画面外からネコの援護射撃が入るが、特に怯むこともなく鏑井は答える。 「あなた方2人を養わないといけないですから、大変なんです」 「「……」」 『養う』という言葉に2人が口を噤む。反論したいけど、うまく言い返せない。そんな雰囲気が伝わってくる。 だが『貰えない』というのも、実はある種の方便だ。あの兄妹が現状を打破するために何かしらの行動をするのなら、お金はどうしても必要になる。だから差し出された全額は受け取らない。その上で、鏑井は貰えると判断した金額を受け取っただけだ。 鏑井たちの解決できる仕事はどうしても数が限られる。ああいった傷害や昏倒事件が事象としては起きていても、それを仕事として依頼してもらえることは多くない。依頼が来なければ事件の発生を把握することは難しい。 その辺りを考慮して「探偵事務所」と銘を打っての活動なのだが、先行きは芳しくない。 「まあ、先のことは追々考えていきます。ともかくお疲れさまでした」 言い方は悪いが、どの道この手の事件はずっとなくならない。 人々が文字に、言葉に、想いを委ねる限り。 人が人である限り。 行き過ぎた感情と感受性に翻弄される。 それはきっと、高度な知識を獲得してしまった人間という種族の宿命なのだから。
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