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一目惚れなんてありえない。
「一目見た時から好きでしたっ! つ、付き合ってください!」
「一目ぼれってやつね。ありがとう、でもごめん」
昼休み後輩の女子に呼び出され、告白された。そして振った。
高校二年の秋、これで13回目。
自分で言うのもなんだが、見た目には自信がある。
自信を持つために、肌や髪、服装などいろいろなことに気を使っている。
その結果モテモテと言うわけだ。
中学から高校になるときに親の転勤で埼玉から神奈川に来た。
なので中学の知り合いは誰もいない。
それをいいことに、俺は高校デビューを果たし、無事成功したわけだが。
俺の好きなところは、見た目だけ。
そこが引っかかって、毎回ふってしまう。
いつか、俺自身を、”坂野恋”自身を好きになってくれる人と。
とか思っちゃっている。
漫画や小説や映画、フィクションの中だけなのかもしれないけど。
それでも。
そんなことを考えていると「グス」とすすり泣きながら、告白してきた女子は走っていってしまった。
「あーあ、可哀想。さっきの女の子ずっと、何でですか? って聞いてたのに、坂野が無視するから」
「え? そんなこと聞いてきてたの? 気づかなかった。ってそれより何のぞき見してんだよ友」
俺に話かけて来たのは、友達の道下友。
友達のことを”友”と呼んでいるわけでなく、本名だ。
俺と仲のいい男子、黒髪の短髪で陸上部に所属している。
陸部なだけあって、細くしなやかな筋肉を持っている。
「あー、俺なら絶対にオーケー出すのにな! もったいねぇ、また#一目__・__#」のこと気にしてんのかよ。
「まぁな」
まぁいいや、それよりさ、と友は話を続けて気た。
「今日のLHRの時に、転校生が来るらしいぞ! しかも女子!」
「また一目惚れなんてされたらどうしよ、なんてなははは」
と、笑いながら調子に乗ってみた。
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そして5,6限が終わり7限目のLHRの時間になった。
担任は転校生がクラスに来ることを教えてくれた。
みんなは転校生が来ること知っているのに、さも知らないかのように中から、「えー!」「女子? 男子?」などの声を上げている。
そして、ガラガラとドアを開ける音がした。
そこに現れたのは、透き通った瞳、スラッと伸びた脚入ってきたときのにこやかな表情。
中学の黒髪とは違い、少し脱色したのか茶色がかっている。
でもわかる、あいつの名は――。
「はじめまして! 父の転勤で埼玉から来ました一路華です! よろしくお願いします!」
そう、一路華だ。
すると、一路は窓側後方の席に座っている俺を見て、「あ!」と大きな声を出した。
正直言うと、関わりたくない。何故ならこの女子こそ俺を変えさせた張本人だからだ。
あれは中3の頃だった。
男女問わず好かれるみんなの人気者の一路華に俺は告白をした。
当時の俺は、今みたいなイケメンでもなければ、ブサイクでもない。どこにでもいる陽キャくらいの立ち位置だった。
そんな俺が一路に告白なんて、無謀なのはわかっていた。
けど、その時には転勤が決まっていて、これが最後のチャンスだと焦っていたのだ。
放課後の教室に呼び出し、そして俺は言ってしまった。
「一目見た時から好きでした。俺と付き合ってください」
一路は驚いた顔をした後。
「一目ぼれって容姿が良い、要するに可愛いからってこと? 見た目なの? それだけで簡単に好きなんて言えるんだ。だとしたら私はレンのことは好きになれない」
言いながら、悲しそうな表情をする一路。
俺はそんなつもりで「一目見た時」なんて言いたかったわけではなかった。
今言わないといけない焦り、目の前にいる一路を目の当たりにした時、俺の思考回路がパンクしないはずなかった。
その結果、当時の俺は「俺がカッコ良くないから」と勘違いしまったのだ。
それから俺が一路と話すことは無かった。
だけどその勘違いをして俺は良かったと思う。
それは現在モテるようになったから、と言うわけではない。
『一目惚れ』される側の気持ちが分かるようになったからだ。
そして、現在に戻る。
担任が、空いている席にするかいっそのこと席替えしようかと悩んでいる間に、一路は俺の方に歩いてくる。
約二年ぶりに一路と出会い、今ならちゃんと告白できるかもしれない。
そう俺は思った。
「久しぶり一路。俺変わっただろ?」
「ははは、本当変わりすぎ、どこのジャニーズだよ! 久しぶりだねレン」
俺らが知り合いだったことに教室はざわめいている。
「一路、俺めっちゃモテるようになってさ」
俺が話をすると一路は「うん」と頷くきながら聞いている。
「そして、言われるようになったんだよ。一目見た時からって」
いつの間にか教室は静観に包まれていた。
「したらさ、これが努力の結果か! って初めはすげー嬉しかったの。でも途中からさ、みんな俺自身の事はなんにもみてくれてないのかなって」
「ブーメランだね、レンの心にぐっさりだよ」
「ははは、本当にな」
だけど、と俺は続ける。
「俺は、一路に一目ぼれしたわけじゃないってわかったんだ。一路の元気な姿、困っている人を分け隔てなく助ける姿、時折周りに助けを求める姿、疲れちゃったのか放課後の誰もいない教室で居眠りしちゃっている姿」
自分でも何を言っているかわからないほどに心臓の音が「ドクンドクン」とうるさく邪魔をする。
だけど、それでも今言わないといけないそんな感じがした。
「そんな優しくてどこか抜けている一路華が好きです。俺と付き合ってください」
「はい」
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