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   トマト甘酒が入ったグラスがゆらゆら揺れている。  いや、違うな。  揺れてるのはあたしの眼球の方だ。    これは……かなりヤバい時の症状だ。  どうにかしないと。  ズキン。    押し寄せる黒い波。  目の前が、真っ暗になっていく。  どうにか、どうにか。 「……で、どうかな。良かったら、付き合ってほしいんだけど」  もう、ホントになんでこうなるの。  ズキン。 「これでもいきなりじゃないんだ。ずっと前から君の事見てて。それで」  ああ、もうダメだ。  限界だああ。クソッ。  違う、ダメだ負けるな。  こんなこと人生で二度とないかもしれない。  いーや、しかしな。  というかこれじゃ何にも考えられんわ。  そうだ、思考を変えろ!  アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・リュウキュウエンシス、アスペルギルス・カワチ……。 「ねえ、聴いてる?稲瀬さん。全然こっち向いてくれないけど……その、ダメなのかな」 「えっ、いやそのあのその、ちょ、ちょっと待ってくださ……と、うっ!」
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