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カーテン越しの窓の外には光のようなものが薄っすらと感じられた。フラフラとベッドを抜け出し、窓の方へと近づいていく。そして、カーテンの隙間から外の様子を窺う。未だ視点の定まらない目に飛び込んできたのは眩くも暖かい光であった。綾莉は瞬間的に目を閉じていた。しかし、肌に触れる空気感が変わったことに違和感を覚え、再びゆっくりと瞼を上げていた。
そこは自分の部屋ではなかった。只々、純白の世界であった。
「なにぃ!? ここどこっ?」
綾莉は自身の眠気を吹き飛ばすほどの大声を上げていた。しかし、白い世界は質問には何も答えてくれなかった。只々、白い静寂が不安を煽るだけであった。
完全にホワイトアウトした世界では方向感覚など全く無意味であった。地面の感覚さえも無く、フワフワと漂っているようにさえ感じられた。
「もうやだぁ……」
腰を抜かしたかのように泣き崩れる綾莉。至って普通の少女が取る衝動であった。
「ホー……ホー」
嗚咽の間隙を縫ってフクロウらしき鳴き声が聞こえている。徐々に大きくなる鳴き声は主が確実に近づいていることを示していた。そして、鳴き声が泣き声を上回った時、震える綾莉の耳にどこか安心できる美しい声が届いていた。
「綾莉ちゃん……綾莉ちゃん」
「……誰? どこ?」
綾莉は恐る恐る尋ねた。
「私はアテーネ・フィルスカイヤ。七つの世界の内のひとつ、クリアスカイヤから来ました」
綾莉は声の主を探して白い世界を縦横無尽に見回す。
「ねえ、どこぉ?」
綾莉はか細い声で再度尋ねた。
実体は見えないが、確かに間近に声が聞こえている。普通の少女が不安を抱くには十分過ぎるシチュエーションであった。
「ここに居ます。見えないかもしれないけれど、ここに居ますよ」
声の主は温かく包み込むような声で綾莉を落ち着かせていく。
「そう……なんだ……あの……ここはどこなの? ねえ、元の場所に帰して……」
綾莉はあちらこちらに注意を向けながら話す。声の震えも徐々に治まっていく。
「ここは、綾莉ちゃんの心の中です」
「私の心!?」
綾莉の目に白以外の色がぼんやりと見え始めていた。白一色だった世界が少しづつ変化していく。
「えっ!? えっ!?」
「ようやく、落ち着いたようですね」
「何で? 何で?」
綾莉は首をブンブンと振り回しながら辺りを窺う。
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