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「ここは綾莉ちゃんの心の中。綾莉ちゃんの感情によって様々に変化をしていくの」
「よくわかんないけど……ねえ、あなたは見えないの?」
移り変わっていく空間に見知った品々が湧きだしてきている。綾莉はそれらをひとつひとつ見定めていく。動揺していた心も、いつしか平静さを取り戻していた。
しかしそうなると、何処からともなく聞こえる美しい声は綾莉の中で怪し気な存在へと転じていた。
「私の実体はクリアスカイヤに在ります。この世界では存在できないのです」
「じゃっ、じゃあ、お、お化け!!」
所詮は子供の考えだった。
「ああ、そういうものとは違います。そうですね、やはりこのままではいけませんね。あっ、あれをお借りします」
声の調子が楽しげなものへと変わっていた。
「えっ、何?」
視界の隅に見えるヌイグルミの山がモゾモゾと動いている。
綾莉はそれらを注意深くジッと見つめる。湧き上がる懐かしさと徐々に思い起こされるヌイグルミとの記憶。自身の成長とリンクしていくヌイグルミたち。
ホッとした次の瞬間、ヌイグルミの山は爆発でもしたかのように飛び散っていた。
「うわっ、わっ、わー!!」
後退る綾莉。そんな綾莉にフワフワと近寄る丸い影。
「ホーホー」
聞こえるのは、鳴き声には程遠いわざとらしい『声』だった。
「ち、近寄らないでよぉ……」
あまりにもふざけたシルエットに声が震える。
「少しメタボチックだけど着心地はまあまあね、ホーホー」
綾莉の目に飛び込んできたのは全く覚えのない空色の丸いヌイグルミだった。
「ヌイグルミ!? フクロウ!? えっ、生きてるの? しゃ、喋ったよね……」
宙を浮く、直径三十センチメートルほどの球形をしたヌイグルミに話し掛ける。
「アテーネよ、ホーホー」
先程までとは一転して何とも可愛らしい声で喋っている。
「えっ? でも、さっきとは何か全然違うっていうか……」
目を白黒させながらもヌイグルミを凝視する。
「そういうものなの、ホーホー。器に左右されてしまうの、ホーホー。気にしないでちょうだい、ホーホー」
「そうなんだ……えっと、それがあなたなの?」
「これは綾莉ちゃんの記憶に存在したヌイグルミだよ、ホーホー。うん、これ気に入った、ホーホー」
「私、そんなの知らないよ……」
いくら考えても記憶には無いヌイグルミだった。
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