8人が本棚に入れています
本棚に追加
「一番輝いていたから、綾莉ちゃんにとっては大事なヌイグルミなんだと思うよ、ホーホー」
「……ごめん、やっぱりわかんないや」
綾莉は再考するも、すぐに断念していた。
「じゃあ、さっさと本題を進めるよ、ホーホー」
「えっ?」
「綾莉ちゃんは、魔法少女になるのよっ!!」
ヌイグルミは当惑する綾莉には構わずに叫んだ。
「…………」
「……ホーホー」
「……」
「ま、魔法少女になるのよ……ホーホー」
「ヤダ」
綾莉は妙に冷静だった。
「ええっと、マ、マジカルガールに」
「絶対ヤダ!」
食い気味に拒絶を示す。
「……」
「ねえ、もう帰っていい?」
綾莉は疲れ切った年寄のように徐に立ち上がっていた。
「ああ待って待って。いきなり過ぎたよね。うんうん、分かる分かる」
逆にヌイグルミの動きは忙しくなっていた。
「ホーホーって忘れてるよ」
綾莉は冷たい声を放つ。
「混乱してるよね。そうよね。うんうん、分かる分かる」
ヌイグルミは綾莉の声を無視するようにまくし立てる。
「混乱してるのそっちじゃん。ねえ、どうしたら帰れるの?」
「ああ、そうそう。お茶の用意してたんだっ」
いつの間にか、綾莉の目の前にお洒落な丸テーブルとチェアーが出現している。テーブルの上には美味しそうなショートケーキとオレンジジュースが並べられている。
それは、綾莉の頭に浮かんだイメージ通りの光景だった。ただひとつ、思わずニヤけてしまうほどにキラキラと輝いたビックリするほどの大きなイチゴを除いて。
綾莉は帰りたいと願う気持ちとは裏腹に椅子に座るとケーキを注視する。
「それで、このケーキはね…………」
綾莉はブツブツと喋るヌイグルミを尻目に、何の疑いもなく一口二口とケーキを食べ進めていく。極上の甘みが口の中に広がっていくにつれて、幸せな気分も広がっていく。手は止まることなくケーキに乗った燦然と輝く大きなイチゴに伸びていた。そしてゆっくりと味わうようにイチゴを口にする。口の中一杯に広がる強い甘みとさっぱりとした酸味が絶妙なバランスで綾莉を癒やしていく。
「これ超美味しいっ!!」
綾莉は思わず叫んでいた。
「あっ……食べてしましたね、ホーホー」
ヌイグルミは綾莉がイチゴを飲み込むのを確認すると勝ち誇ったように喋り始めた。
「えっ? えっ?」
「まあ、食べてしまったものはしょうがないですね、ホーホー」
最初のコメントを投稿しよう!