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戸惑う綾莉に対して、ヌイグルミの声には明らかな安堵の色が窺えた。口調も何となくヌイグルミになる前に戻っている。
「ちょ、ちょっと、何なの……」
綾莉は不安げにヌイグルミを見る。
「契約成立です。こちらは”魔法少女のすゝめ”です、ホーホー」
綾莉の目の前に一冊の本が出現する。
「私、契約なんてしてない……」
「この”魔法少女のすゝめ”は魔法少女としての心得など基本的な部分から詳しい約款まで全てが記載されています、ホーホー……ここまではいいですか、ホーホー?」
ヌイグルミは気にせず話を進めていく。口調が戻った分、語尾が煩わしく聞こえている。
「待って待って、私、契約なんてしてないよ」
綾莉はブンブンと手を振りながら答える。
「魔導属性強化促進剤を体内に取り込んだことで魔法少女としての契約が成立しています、ホーホー」
「そんなの知らないよ!」
綾莉は語気を強めながらプカプカ浮かぶヌイグルミに手を伸ばした。
「クリアスカイヤの魔法少女として覚醒したのです、ホーホー」
ヌイグルミは掴みかかる手をスルリとかわし、勝ち誇ったように話す。
「そんなこと言われても……」
「先ほど、赤い果実的な物を食べましたよね、ホーホー」
「それがどうしたのよ……」
綾莉は憮然と答える。
「あれは契約の証なの、ホーホー。あれを食べたことでクリアスカイヤの力を得たんだよ、ホーホー」
ヌイグルミの口調がまた変わっていた。
「そんなこと一言も言ってなかったじゃん!」
綾莉は叫ぶ。
「契約に関する内容について誠心誠意説明していたじゃないですか、ホーホー。その最中にさっさと食べてしまわれたので、魔法少女としての契約を快諾してくれたのだと思っていました、ホーホー」
ヌイグルミの口調が再度変わった。
「ブツブツ呟いていただけじゃん……だからこんなの無しよ。ク、クーリングオフよ」
「しかし、一度契約をすると勝手に破棄することはできないのです、ホーホー」
「そんなー、どうにかしてよ……」
綾莉は泣きそうな顔で懇願する。
「契約を破棄するには面倒な手続きと、ある程度の期間が必要なのです、ホーホー」
「期間て、どれくらい?」
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