人はパンのみにて生くるにあらず

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 ディオンの瞳には男の子の顔を覆う死期膜が映っていた。  具体的な時期は分からない。  死期膜の揺らぎ方からして、緩慢な死と捉えた。  病気か何か。  だが病死の場合、死期が近い老人に限り見える事があるぐらいで、十歳に満たない子供の死期が見えるのは珍しい。  これが死を専門に取り扱う死神ならば確実性があるのだろうが、悪魔にとってはオマケの機能なのだ。  取りあえず、地獄行きではない。  「お母さんに無駄遣いするなって怒られるから。」  少し俯きがちに男の子が答える。  「僕と同じだね。」  ヨエルが嬉しそうに言うと、男の子の頬が緩んだ。  「これ、いらない?」  ヨエルがチョコを差し出すと、男の子がおずおずと近付いてくる。    「いいの?」
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