人はパンのみにて生くるにあらず

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 「うん、僕はチョコいらないから。」  優しさではなく本心からだ。  「ありがとう。」  側でやり取りを見ていたディオンは二人に通じる何かを感じた。  大抵の人間は、風にそよぐ草木、建物、風景と一体化してディオンとヨエルの瞳に映る。  だから其れ等と交わる事は無く「風と共に去りぬ」なのだが、男の子はヨエルの心に錨を下ろした小舟のようだった。  但し、ヨエルは港ではなく寧ろ海なのだから錨を下ろした所で長く留まる事は出来ないだろう。  「先に行ってる。」  ディオンがそう告げて階段を登り始めると直ぐにヨエルが続く。  振り返ると男の子は階段の下で手を振っていた。  
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