人はパンのみにて生くるにあらず

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 「ヨエル、洗濯が終わったから洋服とパジャマを買いに出掛けよう。」  「寒いもんね。長袖や上に着る物を買えば暖かいだろうね。」  気儘に降車駅を選ぶ二人は相変わらず目的地について話し合う事なく駅に向かった。  気候の変化という理由もあるが、ディオンの頭の中にはともかくヨエルが裸で寝るのだけは阻止しなければ、という事しかない。  歌舞伎町で炸裂した悪魔の衝動は自覚の無いアルコール接種のお陰か、殆んど記憶に残っていなかった。  ヨエルの魅力に人間の男としての低レベルな欲望を抱かずにはいられない。  そうした昂りに思春期の少年のようにディオンは戦いていた。  そもそも悪魔の衝動と人間の男としての欲望に大きな違いがあるのか。  恐らく、そんなに違いはない。    
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