人はパンのみにて生くるにあらず

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 ただ、魔界に悪魔としてある時は衝動を覚えても肉体に支配されるという感覚は無かった。  人の男女に淫らに囁き、破滅に導く時もそうだ。  単なる遊びでしかない。  違いがあるとすれば股の間にある普段は大人しいアレの存在だ。  そこに意識が集まる度に、ディオンはソイツを贋の悪魔として抑え込まずにはいられなかった。  平日、真っ昼間の電車の中は空いていた。  ディオンはレシピ本を開いた。  こうすれば時間に無駄が無い。  ヨエルは呑気に隣でスマホを見ている。  アサリを使ったレシピが見当たらない。  卵料理ばかりだ。  タイトルを改めると「天使のレシピ」その下に副題として「一手間掛けた卵料理」とあった。  溜め息と共に顔を上げると、向かい側の隅に座っている若い女性に目を留めた。
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